歯科医院での自由(保険が利かない)診療の費用はどうやって決められているのか?

保険が利かない歯の治療費というものは、歯科医院のホームページを見ても、医院毎に若干違っていたりしますよね。

この価格というのは個々の歯科医院が決めているわけですが、一体どのように決められているのでしょうか?

また、自由診療を中心に行っている歯科医院は「儲け主義」と思われたりすることがありますが、<多くの医院は実はそんなことはありません。

そこには、保険制度中心で成長してきた歯科業界特有の職人文化が関係しています。

今回はそのあたりをお話ししていきます。

自由診療について理解を深めた上で、ご自身にとって必要かどうかを考えるきっかけになれば本望です。

自由(保険が利かない)診療の費用は個々の歯科医院が決めている

 

以前、「歯科医院の待合室にある詰め物のメニュー表、保険と何が違うの?」にて、自由(保険外)治療の費用は個々の歯科医院が決めるもので、ガイドラインなどがあるわけじゃない、という話をしました。

しかし、「自由に決められる」といっても一般企業と同じで、他の歯科医院より高すぎても患者さんは受け入れづらいし、何より「あそこの医院は儲け主義」と悪い噂を流されかねません。

それでは、どのように値段が決められているのでしょうか?

もちろん、一般企業のようにライバル会社と比較して相場から決める歯科医院もあります。

一方で、根拠をもって値付けをしている歯科医院も多くあります。

というより、私自身がコンサルタントとしてこの自由診療の費用の決め方についても、多くの院長から相談を承ってきました。

そして、根拠をもって決めることが誠実な対応であることを院長方に促してきました。

ここでは、そんな自由(保険外)治療の費用の決められ方について、お伝えしたいと思います。

自由(保険が利かない)診療は医療を追求する歯科医師にとって情熱の源なのです

このようなタイトルを見ると「儲け主義」「利益最優先」の歯科医院が自由診療を追求しているのか、と誤解されるかもしれません。

しかし、多くの歯科医院ではそうではありません。

まず、皆さん考えてみてください。

保険診療というのは、どの歯科医院でも一律で費用が決まっています。

つまり、同じ内容の治療をするのであれば、患者さんが負担する費用はどの歯科医院で、どの歯科医師が行っても同じというわけです。

これは患者目線でいえば、分かりやすくありがたいことでもあります。

しかし、このような業界は実際、多くありません。

特に歯科医師の仕事はいわば、職人の世界です。

研修医を経てライセンスを得たばかりの新米の歯科医師も、30年のベテラン歯科医師も同じ治療なら、費用は同じというわけです。

こんな世界は他にあるでしょうか?

・美容師

・陶芸家

・建築士

・ITエンジニア

歯科医師と同じような職人の世界でもベテランになっていけば、時間単価は異なるはずです。

なぜなら、その経験値によって顧客が得られる価値が異なるからです。

例えば、美容室に行っても店長を指名すれば「店長カット代」を上乗せされることも普通にあるでしょう。

これが普通です。

しかし、保険制度の中の歯科医師は違っています。

ゆえに保険制度の中だけで診断と治療技術を切磋琢磨しようとすると、情熱は持ち続けにくいのです。

それは、例えば歯の状態が悪く、歯を保存できるかどうか?の瀬戸際で治療を受ける時にも関係します。

治療の選択肢が少なく「抜歯しかないですね」という歯科医師と「*****という方法と****という方法があり、これで何とか残すことができそうですが・・」と言われる歯科医師がいます。

あなたにとってはどちらの歯科医師がよいでしょうか。

患者さんの中には、お金はある程度かかっても仕方ないので「なんとか歯を残せるなら残してほしい」と後者のような先生を望む方も多いでしょう。

しかし「後者のような歯科医師になりたい!」「患者さんの役に立ちたい」という歯科医師は、保険制度の中だけでは、生まれづらいです。

なぜなら、患者さんの想いをじっくり聞いて、そのための治療法をいくつも提案・説明し納得してもらった上で治療を行う」というプロセスを経ている歯科医師は、これだけで1~2時間は使います。

また患者さんの疑問に応えるため、何度も質疑応答に応える必要もでてきます。

そもそも、そういう話ができるよう勉強しなくてはなりません。

保険制度の中で単一の治療法だけで行えば、5分の説明で終わってしまうのに。

これを同じ価格で提供していれば、親身になってやってくれる歯科医師ほど、身を削り経済的にひっ迫する中で治療を続けなくてはならなくなります。

これでは歯科医院が長く持ちません。

回転ずしと銀座の寿司屋が同じ価格で提供していないのも同じ理由です。

自由診療を中心に行う歯科医師の多くは、決して「儲け主義」というわけではないのです。

自由(保険が利かない)診療の費用の決め方

自由診療という領域があることで、治療を追求する歯科医師が生まれ続けるという話をしました。

次は、自由診療の費用の決め方です。

費用を決める要素には

・原価

・人件費

・その他固定費(主に設備費、研修・研究費)

があります。

まず原価ですが、歯の詰め物には必ず原価があります。

銀歯よりも、白い詰め物の方が原価は高くなります。

この原価が、費用を決める第一要素です。

次に人件費ですが、これは歯科医師とアシスタントをする歯科助手のことです。

例えば1時間の治療であれば、歯科医師なら3千円~1万円程度、歯科助手は1千円ぐらいの人件費がかかります。

保険診療の場合は治療ごとに点数が決まっているので、そんなに時間をかけられません。

というか採算性を考えれば、保険点数に応じた時間を決めてやらざるを得ないのです。

しっかりした説明をしたら、スタッフに給料すら払えなくなってしまうのです。

多くの歯科医師はここでもジレンマをかかえています。

その点、自由診療ならじっくりと治療に取り組めます。

そして、なんでも丁寧にやろうと思えば時間はかかるものです。

同じ治療でも、自由診療の場合はかける時間も保険診療より長くできます。

これも、自由に費用を決められるゆえにできることです。

何も無駄に時間をかけて治療しているわけじゃないんです。

最後に、その他固定費ですが、これは主に設備です。

高度な治療をするには、それに見合った設備が必要です。

例えばマイクロスコープという拡大鏡がありますが、これがあることで歯の状態を拡大して見ることができ、様々なリスクを回避させることができます。

この機器自体が高価で、数百万はします。

また、高度な治療の場合、設備だけでは自信をもって提供できません。

その技術を養うため、研修に参加して腕を磨く必要があります。

研修に積極的に参加して技術力を上げ(研修費も高く、1回10万円ぐらいを1年ぐらい毎月通います)、患者さんに提供できる技術を身に着けたりします。

患者さんの要望に応えるために、歯科医師側はこういった努力が必要なのです。

では、原価を決める要素がわかったところで、自由診療にかかる費用を計算してみましょう。(あくまでも一例です)

例えば、5万円の白い詰め物を自由診療で行うとします。

そのコストの構造の例は以下のようになります。

原価 :10,000

人件費:2時間×7500円=15,000円(歯科医師1人、助手1人)

設備費:10,000

研修費:10,000

歯科医院の利益:5,000円(売上の1割程)

この合計が5万円となります。

このようなコストが自由診療の費用にのることで、はじめて患者さんは安心・安全な治療を受けられるのです。

原価はスグ思いついたかもしれませんが、実はこのように見えないコストがたくさんかかって、自由診療は成り立っているのです。

私の奥歯は4本のゴールドで、自由診療の治療をしています

自由診療の費用の決め方、いかがでしたでしょうか。

次に、私の体験談をお話しします。

私は奥歯4本にゴールドの詰め物を入れています。

なぜだと思いますか?

私は、奥歯は「よくかめて長持ちする」ということを重要視しています。

奥歯なので審美性(見た目の美しさ)より、この長持ちというのを重要視しているわけです(これはあくまで私の価値観です)。

長持ちというのは「繰り返し治療にならないようにしたい」ということです。

というのも、通常は一度治療した歯のかみあわせがずれることで小さな隙間ができて、細菌が入りむし歯になっていくことで、繰り返し治療が必要となってしまいます。

これを防ぐために、柔らかい金属であるゴールドを使う治療法があります。

私はかみ合わせの力が結構強い方なので、柔らかい金属の方がかみ合わせになじみ、長い期間に渡って小さな隙間ができにくいのです。

これは、むし歯を防ぐために歯ブラシをしっかりするということとは違う、次元の異なる問題なのです。

この治療は実際、1本5万円かかりました。

保険診療なら3千円で済んだかもしれません。

しかし、例えば金属が持つ期間が保険診療なら5~10年ぐらいだったのが、自由診療では10~20年に伸びる可能性があるなら「私は5万円の価値が十分にある」という判断をしました。

価値を考えれば、1本5万円の治療が単純に高いとは思いません。

自由診療を受ける際に歯科医院で確認したいこと

最後に「今後は自由診療も選択肢の1つにしたい」と思われる方向けに、自由診療を受ける前に歯科医院で確認しておきたいことについてお伝えします。

それは、

1)歯科医院のコンセプト

2)保証期間(自由診療)

3)治療回数(もしくは期間)

です。

1)歯科医院のコンセプト

その歯科医院がどんなコンセプトで治療を行っているか?それは自分がして欲しい治療とあっているか?を確認します。

これは、医院が公開しているホームページなどで簡単に確認できますね。

私の例であれば「できるだけ長く持つ治療」といったコンセプトのある歯科医院が適切です。

2)保証期間

自由診療を行う場合、通常は保険診療よりも保証期間が長くなります。

保証期間とは「その間に何かトラブルがあった場合は無償で治療や取り換えを行います」という、歯科医院と患者さんの約束です。

例えば、保証期間は保険診療が2年で自由診療が5年というようになります。

これは1)同様にホームページで確認するか、記載がなければ治療を受けたい歯科医院に電話して「詰め物の治療で自由診療を受けた場合の保証期間はありますか?それはどれぐらいでしょうか?」と確認してみると良いです。

3)治療回数(もしくは期間)

治療が始まる前に、歯科医院の方から「保険内で行うか自由診療で行うか?」の確認があります。

その時に治療回数の目安の説明がなければ、確認してみましょう。

なお、保険ありきで自由診療の選択肢を話さない歯科医院も多いです。

それは歯科医院側が「当院の地域では自由診療にする人はほとんどいないから話しても時間の無駄だし、儲け主義と誤解されても困る」という意識が働いていることが多々あります。

その場合は「保険外診療の話も一度、聞くことはできますか?」と聞けば、説明してくれるものです(歯科医院側が遠慮しているだけのケースが多いためです)。

まとめ

  • 自由(保険が利かない)診療の環境が、高度な治療を安心して受けられる歯科医師を育てる

(自由診療は決して儲け主義医院のための診療ではない)

  • 費用は原価、人件費、設備や研修費で決められている
  • 自分が求めるコンセプトを持つ歯科医院を探す

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丹羽浩之

兵庫県神戸市在住の私(丹羽浩之)は仕事では長年、全国の歯科医院と接点を多く持ってきており、2児(小学生と幼稚園児)の父親でもあります。
そして親として、子供たちに健康の大切さを伝え、歯を大切にする習慣を自立的に身につけてほしいと願っています。

なぜならお口は「食べられる、話せる」からはじまり、「歩ける、話せる」にも影響し、また全身の病気や慢性疾患になるリスクも大きく変わってくるためです。
しかし、こんな大事なことを「どこからもきちんと教えてもらう機会がない」、これが日本の実情です。

仕事柄、私を知る人から「(自分の地域で)おすすめの歯科医院はないですか」「どうやって自分にあった歯科医院を選べばよいですか」といった相談を数知れず受けてきました。
そして、ほかにも同じような悩みを持っている人たちが大勢いるのではないかと思いました。

そこで、私のこれまでの経験値を含めた情報は、そのような方々のお役に立てるのではと思いこのサイトを立ち上げることにしました。
また、このサイトでは予防歯科の情報提供のあり方として、「患者の立場」を最も大切に考えています。

仕事では歯科医院の経営コンサルタントとして15年間で500件以上の歯科医院に関わってきました。
その中で、日本人の予防歯科(定期健診)への関心の低さが、常に課題としてありました。

予防歯科に通う習慣がある人とそうでない人とでは、人生における生活の質が全く違ってくることを医院に通う患者さんを通じて知りました。
なお、このサイトで医学的に正確な情報が必要な部分については、私が15年に渡って信頼を築いてきた歯科医師、歯科衛生士、医師の方々にご監修して頂いたり、引用元を明記した上で情報提供します。